家事按分のやり方|自宅の家賃・電気代を経費にする割合の決め方
公開日: 2026/8/27
この記事でわかること
自宅で仕事をしている個人事業主にとって、毎年悩ましいのが「家賃や電気代を、いくら経費にしていいのか」という問題です。
ネット上には「家賃は30〜50%が目安」「白色申告は50%を超えないと按分できない」といった説明があふれていますが、このうち後者は正確ではありません。この記事では、所得税法・施行令・通達の条文にあたって、何が決まっていて何が決まっていないのかを整理します。
まず自分の場合の金額を知りたい方は、家事按分の計算ツール(無料・登録不要)で、面積や使用時間から按分の割合と経費計上額を計算できます。
家事按分とは:条文の構造を1回だけ確認する
事業と生活の両方に関わる支出を「家事関連費」といいます。自宅兼事務所の家賃、電気代、通信費などが典型です。
条文の構造は少し変わっています。
- 所得税法45条1項1号:「家事上の経費及びこれに関連する経費で政令で定めるもの」は必要経費に算入しない
- 所得税法施行令96条:その「政令で定める経費」とは、次に掲げる経費以外の経費とする
つまり、施行令96条に挙げられたものは「経費にできない対象」から除外される=経費にできる、という二重否定の書き方になっています。この96条に何が挙がっているかが、家事按分のルールそのものです。
【重要】「白色は50%を超えないと按分できない」は正確ではない
ここが最も誤解の多い論点です。順番に見ます。
施行令96条1号(青色・白色を問わず全員に適用)
家事上の経費に関連する経費の主たる部分が〔中略〕業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分することができる場合における当該部分に相当する経費
施行令96条2号(青色申告者への上乗せ)
前号に掲げるもののほか、青色申告書を提出することにつき税務署長の承認を受けている居住者に係る〔中略〕取引の記録等に基づいて、業務の遂行上直接必要であつたことが明らかにされる部分の金額に相当する経費
1号には「主たる部分」という要件があり、2号(青色)にはそれがありません。条文上の差は確かに存在します。
問題は、この「主たる部分」の解釈です。所得税基本通達45-2を見ます。
令第96条第1号に規定する「主たる部分が〔中略〕業務の遂行上必要」であるかどうかは、その支出する金額のうち当該業務の遂行上必要な部分が50%を超えるかどうかにより判定するものとする。ただし、当該必要な部分の金額が50%以下であっても、その必要である部分を明らかに区分することができる場合には、当該必要である部分に相当する金額を必要経費に算入して差し支えない。
太字部分のとおり、50%以下でも、区分できるなら算入して差し支えないと国税庁自身が明記しています。「白色申告は50%を超えないと1円も経費にできない」という説明は、このただし書きを読み落としたものです。
正確に言うとこうなります。
| 条文上の建てつけ | 実務上の要点 | |
|---|---|---|
| 白色申告 | 96条1号のみ。「主たる部分」要件あり | 通達45-2のただし書きにより、50%以下でも区分できれば算入可 |
| 青色申告 | 96条1号+2号。2号には「主たる部分」要件なし | 「取引の記録等に基づいて」=帳簿を前提とした書きぶり |
つまり条文上は差があるが、通達の取扱いによって実質的な差はかなり埋まっている、というのが正確な理解です。どちらにせよ、決め手になるのは割合の大きさではなく「合理的に区分して説明できるか」です。
割合の「基準」は国税庁が定めていない
もうひとつ重要な事実があります。国税庁は家事按分の具体的な計算方法も、割合の上限も定めていません。
判断枠組みを示しているのは所得税基本通達45-1だけです。
「主たる部分」又は「業務の遂行上直接必要であったことが明らかにされる部分」は、業務の内容、経費の内容、家族及び使用人の構成、店舗併用の家屋その他の資産の利用状況等を総合勘案して判定する
床面積で割る、使用時間で割る、コンセントの数で割る——こうした方法は実務上の慣行であって、国税庁が「この方法で計算せよ」と定めたものではありません。同様に、「家賃は30〜50%が目安」という数字にも法令上の根拠は見当たりません。
裏を返せば、自分で説明できる基準なら何を使ってもよいということです。逆に、根拠なく「なんとなく半分」とするのは、条文が求める「明らかに区分することができる」状態を満たしません。
実務でよく使われる按分の基準
以下は法令上の基準ではなく、実務で一般的に使われている考え方です。
| 費目 | よく使われる基準 | 考え方 |
|---|---|---|
| 家賃・地代 | 床面積 | 仕事に使う部屋やスペースの面積 ÷ 住まい全体の面積 |
| 水道光熱費(電気) | 使用時間・使用面積 | 業務時間の割合、または仕事用スペースの面積割合 |
| 通信費(ネット・携帯) | 使用時間・業務利用割合 | 業務で使っている時間や回線の割合 |
| 車両費・ガソリン | 走行距離 | 業務での走行距離 ÷ 総走行距離 |
| 火災保険料 | 床面積 | 家賃と同じ考え方 |
家事按分の計算ツールでは、面積(事業用÷全体)と使用時間(業務時間÷24時間×7日)から割合を計算し、費目ごとの年間経費額を出せます。
持ち家の人が気をつけること
賃貸より論点が多いので分けて整理します。
住宅ローンの元本は経費になりません。 借入金の返済は費用の支出ではないためです。経費にできる可能性があるのは、業務用部分に対応する次のようなものです。
- ローンの利息(業務のための借入金の利息は必要経費になるとされています)
- 固定資産税(業務用の部分に限って必要経費)
- 建物の減価償却費
- 火災保険料
なお、自宅を後から事業用に使い始めた場合の減価償却は、通常とは違う特別な計算が必要です(非業務用期間の「減価の額」を先に控除する方法。耐用年数に1.5を乗じた年数で旧定額法により計算します)。
住宅ローン控除との板挟みに注意
持ち家で住宅ローン控除を受けている人は、事業割合を上げると控除が減るという関係があります。
- 居住用部分がおおむね90%以上であれば、家屋の全部を居住用として扱える取扱いがあります(=事業割合がおおむね10%以下なら控除は満額)
- 事業割合がそれを超えると、居住用割合で按分され控除額が減ります
- 床面積の2分の1以上を専ら居住用にしていないと、住宅ローン控除自体が受けられません
按分で増える経費と、減る住宅ローン控除。トータルで有利不利が逆転しうるので、両方を並べて比べてください。制度の詳細は居住開始年によって借入限度額・控除期間が異なるため、国税庁で必ず最新をご確認ください。
生計を一にする親族への家賃は経費にならない
見落とされがちな、しかし影響の大きい落とし穴です。
所得税法56条により、生計を一にする配偶者やその他の親族に支払う地代家賃は、実際に支払っていても必要経費になりません(受け取った側も所得としません)。実家や親名義の物件に住み、家賃を払っているケースが該当します。
ただし救いもあります。その親族が負担している固定資産税等のうち業務用部分は、事業を営む本人の必要経費になるとされています。
なお、生計が別の親族との賃貸借であれば、通常どおり按分の対象です。「生計を一にするかどうか」が分岐点になります。
根拠を残す:それ自体が要件です
按分の根拠を残すことは「やっておいた方がよいこと」ではなく、条文の要件そのものです。1号は「明らかに区分することができる場合」、2号は「取引の記録等に基づいて…明らかにされる部分」と書かれています。根拠がなければ、要件を満たさないことになります。
- 面積按分 → 間取りと仕事に使うスペースの記録
- 時間按分 → 業務時間の記録
- 走行距離按分 → 運行記録
白色申告者にも記帳義務・帳簿保存義務があります。法定帳簿は7年、その他の帳簿・書類は5年の保存が必要です。なお令和5年分の修正申告等からは、売上げに関する帳簿の不保存や記載不備が調査で把握された場合に、加算税が5%または10%加重される措置も始まっています。
家事按分は国税不服審判所で争われた事例も複数公表されている論点です。「この割合なら通る」と断定できる性質のものではないので、説明できる根拠を持つことに注力するのが現実的です。
按分の記録を楽にする
按分は毎月の記帳とセットで管理すると年末が楽になります。クラウド会計ソフトには、家事按分の割合をあらかじめ設定して対象科目を自動で按分計算する機能を備えるものがあります(対応範囲はソフト・プランにより異なります)。
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まとめ
- 家事按分の条文は施行令96条。1号は全員、2号は青色への上乗せ
- 「白色は50%超でないと按分できない」は不正確。通達45-2のただし書きで、50%以下でも区分できれば算入して差し支えないとされている
- 国税庁は割合の上限も計算方法も定めていない。「家賃30〜50%」等に法的根拠はない
- 決め手は割合の大きさではなく「合理的に区分して説明できるか」
- 持ち家はローン元本が経費にならない点と、住宅ローン控除との板挟みに注意
- 生計を一にする親族への家賃は経費にならない(所得税法56条)
- 根拠を残すことは要件そのもの。法定帳簿7年・その他5年の保存義務あり
本記事は2026年8月時点の法令・通達(国税庁タックスアンサーは令和7年4月1日現在法令等)にもとづく一般的な情報提供であり、税務相談ではありません。家事按分の適否は個別事情の総合勘案で判定されます。判断に迷う場合は税理士または所轄税務署にご相談ください。
出典
- 所得税法(e-Gov法令検索)(45条・56条)
- 所得税法施行令(e-Gov法令検索)(96条)
- 所得税基本通達 法第45条関係(家事関連費)45-1・45-2(国税庁)
- 所得税基本通達 法第56条関係 56-1(国税庁)
- No.2210 必要経費の知識(国税庁)
- No.2080 白色申告者の記帳・帳簿等保存制度(国税庁)
- No.2109 非業務用から業務用に転用した場合の減価償却(国税庁)
- 租税特別措置法関係通達 第41条関係(国税庁)